迂闊にも程がある

迂闊なおばさんの悲喜こもごも

「歩きたい」と父は言った ※長文

 

父のおでこの縫い傷の抜糸に行って来た。

午前9時の予約だったけど父を迎えに行って病院には8時半ごろ到着。

駐車場や病院内での移動は車椅子なので何だかんだと時間がかかるので。

(えらい早よ着いてしもたわ)とは思ったけれど、そこはさすがの月曜日の病院である。もう既に各診察室前のベンチは人で一杯。

その人々の前を車椅子の親子が花道のごとく通っていくのだ。おでこに約5cm四方のガーゼを貼り付けている父は診察を待つ退屈な民衆の格好の好奇の餌食 もとい 注目の的である。

 

かろうじて空いていた席で次女のバレエショールを編みながら待っていると、隣に座っている母娘と思われる方たちの会話が否が応でも耳に入ってくる。

思わず聞き耳を立ててしまった話題は娘さん(と思われる)のお姑さんの断捨離っぷりだ。何とほぼすべての食器を捨て娘さん達や来客の際は紙皿・紙コップ・ペットボトルでもてなすそうだ。衣類もほとんどなくて部屋はとてもすっきりしているらしい。その流れから横にいるお母様(と思われる)の物の片づけの話へと突入していく。

「そんなにパッパと捨てられへんわ」

「でもアレくらいしてくれたら後が楽やわ」

「有田の壺とかええ値ぇするし、よう捨てん」

「壺!? 壺て…」

「壺は壺やん 花器て言うん?」

もう、この時点で私は娘さん(と思われる)とほぼ同時にツッコんでいた。

「壺て!」

(あ、だめだ この壺という字を何度も見ているとゲシュタルト崩壊が起こる)

 

笑を堪えきれない寸前で父の名前が高らかに呼ばれた。

助かった、笑いの寸止めである。

立ち上がり車椅子を押して診察室へ向かう私たち。

その後姿に母娘(と思われる)さんの視線が突き刺さる。

声が聞こえてくるようだ。

(何で?あの人たちの方が後から来たのに)

ふふ、私たちは「予約」しておりますもの。

 

無事に抜糸が終わり会計も済ませ病院を出たのは9時15分。

早っ

予約万歳ってなもんだ。

 

ホームに戻り副施設長さんや常勤さんと話す。

今後、車椅子はよっぽどの時に使用するという事にして極力歩いてもらう事となった(私が強く希望した事と本人が歩きたいと言ったので)。

父が歩きたいと言った時にチラッとスタッフさんの顔を見た。

 

車椅子に完全に頼る程に足はダメになっていないし、もし車椅子になってしまったら大好きな王将へ行く事もままならなくなる。それに片麻痺だから車椅子の自走は出来ないので、自室での移動はどうなるのか。

今はまだ車椅子の段階ではないという事で部屋から食堂・浴室への移動は今まで通り歩いて移動する事になった(スタッフさんの歩行介助は付いている)。

 

そして、父のGパンの件。

私が以前に父にGパンを買ってあげたら、いたくお気に入りで履いてくれていたのだけど(延べ3本)、痩せてしまってベルトをしないとずり落ちてしまうので、以前に買ってあったトレーニングパンツ(ジャージ?)のウエストのゴムをキツめに入れ替えて履いて貰う事に。また、今着用しているズボン下がエアリズムやヒートテックなどのピッタリした物で膝の傷に擦れるのでヒラヒラしたタイプに替えて欲しいとスタッフさんに言われたので、急いでウエストゴムとゴム通し・ソーイングセットとヒラヒラしたズボン下を買いに走る(我が家に取りに帰るよりも早い)。

 

戻って来たら常勤さん(女性)が待っていらして、「一緒に部屋に行きます」と言う。

私が4本のジャージのウエストのゴムを入れ替えている間、常勤さんはミニチェスト内の肌着類を片付けてくれていた。丁度いい機会だからこの際、娘さんに色々聞いて片付けてしまおうと思ったのかな?(そんなにごちゃごちゃしてないと思うけど 笑)。

以前はちょっと苦手なタイプと思っていたけど、思いのほかお喋りさんで彼女との会話が案外楽しくて作業もはかどったのだ。

エストのゴムの入れ替えは一部ミシン目を切らねばならなかったり、なかなかシュッとゴムは通ってくれない。これ一人でやってたらイラッとしたと思うわ。傍らにいる常勤の彼女のお陰で孤独な作業にはならなかった。彼女にはスタッフとしての使命はあったかも知れないけど、いつも一人で黙々とやっているので側に居てくれただけでありがたかった。

父はベッドでスースー寝ていたけどね(笑)。

 

お昼ご飯の時間になって彼女の歩行介助で父は食堂へと歩いて行った。

その歩みを見てひとまず安心した(まだイケる)。

そして途中ではき替えたゴムを入れ直したジャージもずり落ちずウエストにジャストフィット!私の目算を自分で褒めた(笑)。

 

あぁ、一時はどうなることか(車椅子になるのかどうか)と心配したけど、

今日の父の歩く姿を見て本当に嬉しかった。

「お手間をかけてしまうけど、どうぞどうぞよろしくお願いします」と

ホームを後にした。

 

 

台風がゆっくりと迫ってきている。

それなりの備えを済ませた。

 

そして、こんな時に何だけどちょっと早めの秋のあしらいを作ってみた。

 

モミジバフウ、フウの実で作りました。島根県木次乳業の庭カフェで拾った物。